PGF2αについての考察

牛の専門的内容

牛の繁殖で最も良く使われる薬剤はおそらくPGF2αでしょう。私も良く使用しますし、農家さんも馴染みのある名前だと思います。今回はPGF2αについて少し考察していきたいと思います。PGF2αの繁殖生理学的な機能については、機会があれば詳しく解説しますが、PGF2αは「黄体を退行させる」作用があります。

「PGF2α(今後PGとします)を打ったら、3日後に授精する」

これは広く耳にする機会が多いです。しかし、3日後に確実に発情が来るとは限らないことは、皆さんも経験上感じていると思います。そして、PG単独使用における受胎率が悪いと感じる農家さんもいるかもしれません。

ある研究(Xu et al.,1998)ではPG投与後、約88%の牛が7日以内に発情がみられたとしています。(下のグラフ)これだけを見てもPG投与後の発情にはバラツキがあることが分かりますね。また、12%の牛には発情がみられなかったということも忘れてはいけません。

また、スタンディング発情から排卵までの時間は平均30時間といわれていますが、実際には18.5時間~45.5時間後と大きく幅があります。受胎率が低いと感じる方は、これらの影響もあるのかもしれません。「PG→3日後に授精」でなく、「PGを打ったら発情を確認して授精」そして、その発情発現のタイミングにはバラツキはあるものの2~3日後が多いという認識でいることが大切です。

それでは、PGは卵巣周期のどのタイミングで打つべきなのでしょうか。逆に言うと、PGを打つべきでないタイミングはいつなのでしょうか。結論から言うと、排卵後4日~5日は反応しない(ことが多い)です。

以下 引用文献

Effects of d-cloprostenol dose and corpus luteum age on ovulation, luteal function, and morphology in nonlactating dairy cows with early corpora lutea
X. Valldecabres-Torres ,* E. García-Roselló ,† A. García-Muñoz ,* and J. Cuervo-Arango

この文献の結果によると、

  • 排卵後、4日後、4.5日後のPG投与ではP4値(黄体ホルモンの値)が低下せず、排卵に至っていない。
  • 5日後の投与では5頭中1頭のみPG投与から7日以内に排卵した。
  • 5.5日後の投与では5頭中3頭がPG投与から7日以内に排卵した。
  • 5日後~5.5日後の2倍量のPG投与は、標準量の投与よりも黄体退行を強く促した。

*ここから私見

この文献からも排卵から5日は通常量のPGでは反応しない牛が一定数見られたようです。やはり、発情から1週間程度はPGに反応しない場合も多いと感じるので、周期の見極めが大切ですね。2週間ごとの繁殖検診であれば、かなり周期を予測できますが、月に1回程度の繫殖検診では周期を予測しにくいです。それでも卵胞の数や子宮の厚み等からある程度の予測はできますが、正直、難しいことも多いですね。逆に言うと、ここら辺が繫殖検診の腕の見せ所となってくるかもしれません。

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