受胎率は最も良く聞く繁殖成績の評価指標の1つです。計算方法も難しくありません。
牛A:分娩後、1回の授精で妊娠(受胎率100%)
牛B:2回の授精で妊娠(受胎率50%)
牛C:3回の授精で妊娠(受胎率33.3%)
この3頭の平均の受胎率は 3÷(1+2+3)=50%となります。
つまり、「受胎(頭)数/授精回数(×100)」で計算できます。
受胎率を評価するときの注意点としては、受胎率には時間という要素が含まれていないという点です。
以下に例を示します。
牛D:分娩後50日、71日、92日で計3回の授精を行い、3回目で受胎した
牛E:分娩後150日で1回の授精を行い、1回で受胎した
この牛Dと牛Eをそれぞれ受胎率で比較すると、
牛D:受胎率33.3%
牛E:受胎率100%
受胎率では牛Eの方が良い結果ですが、分娩後早期に受胎に成功したのは牛Dです。
どちらの農場の繁殖成績が良いと考えるでしょうか。
一概には言えませんが、牛Dは牛Eよりも分娩後早期に妊娠をしているので、繁殖の回転率としては良いように見えます。しかし、授精コストやホルモン剤を使用していたなら、牛Eのように1回の授精で妊娠した方がトータルの費用は安くなるかもしれません。1つ言えることは、受胎率だけで繁殖成績は正確には把握できないということです。
また、受胎率は様々な視点で観察することが重要です。例えば、下のグラフは受胎率の月ごとの変化をある2年間分示しました。夏季に明らかに受胎率が低下していることが見て取れます。この農場では暑熱対策が夏季の繁殖成績低下対策としては有効と考えられます。
これ以外にも、産次数別、授精回数別、分娩後日数別、ホルモン処置別に受胎率を分析することで、適切に繁殖状況を把握できます。
こういった分析は様々な繁殖管理ソフトを使うことで、一部分析可能です。繁殖担当の獣医師がいる場合には、こういった数字を見ながら相談していくと良いでしょう。
以下の表は授精後日数別の再授精の頭数と受胎率です。
注目すべき点は「Heat Interval 18-24」の行です。ここでは授精後18日~24日で何頭再授精へ向かったか、そしてその結果が示されます。この農場ではその周期で40頭(Totalの列)授精し、その受胎率は50%です。また再授精の割合は38%(%Totalの列)です。この再授精割合は35%~40%が目標値となります。そのため、この農場は発情発見の優れた農場と考えられます。
別の農場では、18日~24日の再授精割合(%Total)が3%に留まっています。この農場は授精後の再発情発見が苦手な農場といえるでしょう。
続いて分娩後日数別の受胎率です。上記の農場では、分娩後50日から授精を開始し、受胎率も非常に高く50%を超えています。
次の農場では分娩後50日~69日が最も受胎率が低く、分娩後100日前後に向けて徐々に受胎率が上がっています。この農場では分娩後の子宮回復が遅れている、周産期疾病が多いなどの問題を抱えている可能性がありますので、乾乳~分娩~フレッシュの期間のマネジメントを見直すことでより良い結果につながるかもしれません。
このように、受胎率は様々な切り取り方をして分析していく数値です。受胎率が高いことは素晴らしいことですが、それだけにとらわれすぎず、多様な視点で見ていくと良いでしょう。
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