イントロダクション
本研究は、白血球エステラーゼ(LE)、タンパク質、pHのテストを用いた市販の尿試験紙を子宮洗浄液サンプルに適用して、子宮内膜炎診断の可能性を評価することを目的としています。子宮内膜炎は分娩後の子宮収縮をしていても持続し、繁殖成績を低下させる炎症性子宮疾患です。しかし、潜在性子宮内膜炎の牛はしばしば外部徴候を示しません。今回の研究では、尿検査で使用する試験紙を用いて、細胞診による検査との整合性を調べ、カットオフ値を特定することを目的としています。
方法
本研究は、ニューヨーク州の28農場から収集された563頭のホルスタイン牛の子宮洗浄液サンプルを対象に行われました。対象牛は分娩後40~60日であり、目視検査で健康と判断され、外部膣分泌物が認められない牛でした。子宮洗浄液サンプルは、滅菌生理食塩水を子宮に注入し、5~8mLを回収して収集しました。収集されたサンプルは氷上で輸送され、尿試験紙に1滴ずつ滴下し、LE、タンパク質、pHの結果を評価しました。子宮内膜細胞診は、細胞遠心分離後に染色し、好中球、リンパ球、マクロファージ、子宮上皮細胞を200個カウントして行いました。試験紙結果と子宮内膜炎、繁殖成績との関連を評価しました。最適なカットオフポイントは、ROC解析により決定されました。
結果
563頭の牛のうち27.7%が子宮内膜炎を発症していることが確認されました。LE、タンパク質、pHのすべてが子宮内膜炎と強く関連しており、最適なカットオフポイントはLEが+++、タンパク質が300 mg/dL、pHが7.0でした。LEの感度は76.9%、特異度は51.8%で、タンパク質の感度は58.3%、特異度は55.8%、pHの感度は44.9%、特異度は78.4%でした。多産牛において、LEとpHの組み合わせは繁殖成績の低下と関連しており、LE+++で154日、pH7.0以上で150.5日の開胎期間が観察されました。初産牛では、LEやpHの影響は見られませんでした。LEとpHの結果を組み合わせた場合、感度は18.6%、特異度は96.8%でしたが、20.6%の牛は分類が困難でした。
考察の要約
本研究は、LE、タンパク質、pH試験紙の結果が子宮内膜炎と有意に関連していることを示しましたが、その診断性能は従来の細胞診と比較して劣ることが明らかになりました。過去の研究と比較すると、LE試験の感度と特異度は低く、サンプリングと試験の間隔が長いことが影響している可能性があります。また、炎症状態にある牛では体液のpHが上昇することが確認されましたが、タンパク質は将来の繁殖成績を予測するのに有効ではありませんでした。今後の研究では、試験紙の改良と診断カテゴリの最適化が重要です。
*ここからが私の感想
潜在性子宮内膜炎は私の知る限り、サイトブラシを使用した細胞診での確定診断がないと確定できないものとなっています。サイトブラシを用いた細胞診は採取や検査が煩雑で、現場レベルではあまり実施されていないのが現状と思います。
この研究で少量の子宮潅流液採取による尿検査紙を用いた方法は非常に簡易で取り組みやすいため、参考になります。恥ずかしながら10年以上前の論文ですが、最近、子宮内膜炎について調べているときに、この報告を知りました。カットオフ値についてですが、ROC解析の結果、白血球+++とpH>7.0の組み合わせが最も良好な結果とのことでした。これを見ると判断が難しい個体もかなり出てきそうかなという印象です。しかし実際に試してみないと、わかりませんね。
この報告では採取した細胞を染色・検査しています。好中球、リンパ球、マクロファージ、子宮内膜上皮細胞をカウントし、赤血球は省いています。そして、好中球が全細胞の10%以上を子宮内膜炎としています。現場で繁殖を見ている立場からは、エコー所見との関連にもっと踏み込んでくれ!となってしまいますが、たぶんエコーでは難しいのでしょう。
この論文では、感度・特異度・陽性反応的中度・ROC曲線等が出てきたので、復習がてら、次回にそれらもまとめてみようかなと思います。
コメント